当社は、2020年以降、コロナと日野自動車株式会社によるエンジン認証不正の影響を受け、生産台数が大きく減少し経営的に苦しい状況が続いてきました。しかし、2022年度下期からは、宇都宮工場で生産している路線バスの生産台数が回復し、コロナ禍からの復活を感じることができました。小松工場で生産する観光バスについても、2023年5月にコロナが5類に移行したことや、エンジン認証不正の影響で生産できなかった主力車種の生産が再開したことで、生産台数は戻りつつあり、2023年度の両工場合わせた生産台数は、コロナ前の7割程度まで回復しました。今後は、路線、観光とも本格的な回復が見込めるものと期待していますが、バス業界でもドライバー不足や高齢化が深刻な問題となっており、減便や路線廃止も相次いでいるなど、楽観視できる情勢ではなく、引き続き動向を注視していきたいと思います。
私は2022年4月からジェイ・バスの経営に参画し、2024年6月より社長に就任しましたが、当社は日野自動車株式会社・いすゞ自動車株式会社の指示のもとでバスの開発・生産を行うという事業構造であるため、「受け身」のスタンスになりやすいという印象を持っています。世の中が大きく動く中で、「こうしたらいいのではないか」「ジェイ・バスならこういうことができる」という能動的な提案ができないと、社会から取り残されてしまうかもしれないという危機感も持っています。この危機感を健全な形で社内に広げ、新しい挑戦につなげていくことが、これからの当社にとって重要な課題になると認識しています。
CSR重点領域のひとつに「持続可能なサプライチェーンの構築」を掲げていますが、私はジェイ・バスの経営に参画する以前、日野自動車株式会社で長年にわたり原価管理や調達の業務に従事していました。かつてはコスト競争力強化の観点から、原価低減に注目が集まり、人件費やエネルギー費のアップは原価低減で吸収というのが一般的な調達環境でしたが、ここ数年の材料費、人件費、エネルギー費等の高騰は、従来水準を大きく上回っており、今までのやり方が通用しなくなってきました。仕入先様との間においては、対等な立場でパートナーシップを築き、合理的なコストアップは適正に価格反映するとともに、企業力の源泉である「コスト競争力」の維持に向けた原価低減活動についても、継続的な成長を実現できるよう協力しながら取り組んでいければと考えています。
同じく重点領域としている「より安全で快適な移動の提供」や「環境に配慮した事業プロセスの追求」において、今後ますます重要になるのが、カーボンニュートラルへのアプローチです。路線バスでは電動化が進みやすいのですが、長距離の走行が求められる大型観光バスではバッテリーを大量に積載したり、充電のために長時間停車したりすることになってしまうため、電動車の実用化には困難が伴います。日野自動車株式会社・いすゞ自動車株式会社の商品戦略や技術開発部門と連携をしながら、将来的な解決に向けて検討を進めていきます。また、工場に太陽光発電パネルを設置するなどのクリーンエネルギー導入についても、引き続き検討していきます。令和6年能登半島地震では、当社に直接の影響はなかったものの、石川県を中心に甚大な被害が発生しました。石川県に拠点を置く企業として支援を行うべく、災害義援金の拠出や無料乗合バスによる輸送支援、ボランティア活動の拠点として社員寮の空き部屋を提供するなどの活動に取り組んできました。皆様の安全と被災地の一日も早い復旧・復興をお祈りいたします。
当社がこれからも成長を続けていくためには、働く一人ひとりがいきいきと活躍できる職場環境をつくることが大切と考えています。重点領域でも「多様な人々が活躍する職場の確立」を掲げており、これまでもIT関連や設備などの整備を着実に進めてきましたが、DXの推進やオフィス環境の改善など、さらなる職場環境の改善に努力して参ります。
人事制度については、当社がジェイ・バスとして統合してからの20年間、大きな変更がないまま今に至っています。加えて、社内の年齢構成が高齢化しているため、若手人材の獲得と活性化が急務です。賃金体系や評価制度を時代に即した形に変え、諸制度も整えていかなければ、ここでも社会に取り残されてしまう可能性があります。また、当社の生産は時期によって繁閑の差が大きく、人員確保が難しいという課題もあります。社会全体で人手不足が問題視されていることもあり、日野自動車株式会社・いすゞ自動車株式会社やバス事業者様のご協力もいただきながら、生産の平準化に向けて議論を続けていく必要があると認識しています。
石川前社長が推進してきた「変えるべきところは変え、変えずに守るべきところは守る」という方向性を継承しながら、社員とともに考え、魅力を感じられる職場を目指して、改革に着手しなければと考えています。これからも「人びとの移動を支える」会社として、安全で快適なバスの開発・生産に尽力するとともに、社員の安全と健康を守り、地域の皆様に愛される企業であり続けるよう努めてまいりますので、今後ともご期待いただければと思います。